2013年にForbes誌の「Top 50 Social Media Power Influencers」にも選出されている、ニール・シェーファー氏に、マーケティングのチャネルとして注目度が高まりつつあるインフルエンサーマーケティングについて、シェーファー氏の拠点であるアメリカの状況や日本との違いを伺ってきました。
プロフィール
ニール・シェーファー氏:SNSマーケティング分野で自身のブログを運用。その後、影響力の拡大を受けて、Maximize Social Business というメディアを創設。現在は、メディア運営の傍らで、SNSマーケティング分野のインフルエンサーとしてカンファレンスへの登壇、大学でのSNSマーケティングの教授、北米向けSNS代理運用のPDCAソーシャルの経営などを行なっている。著書:『Maximize Your Social (2013年)』『The Business of Influence (2018年出版予定)』など
インフルエンサーは、無視できない存在に
インフルエンサーラボ副編集長 日比:今年、『The Business of Influence (影響力というビジネス 未翻訳)』という本を出版予定とお聞きしております。ご自身もソーシャルメディアマーケティングの分野で大きな影響力をお持ちですが、「インフルエンサー」とはどのような人と定義されていますか?
ニール・シェーファー氏(以下、敬称略):インフルエンサーという言葉自体は、ソーシャルメディアが生まれる前からアメリカでは使われていましたが、現在はソーシャルメディア上で影響力のあるコミュニティを持っている人であり、そのコミュニティに情報を拡散でき、そして具体的なアクションを引き出せるコンテンツ作りやデジタルコミュニケーションのスキルやノウハウを持っている人だと考えられていると思います。
日比:インフルエンサーへの注目が高まった背景には、どのような社会的変化があるのでしょうか
シェーファー:世の中のコンテンツがよりビジュアル化する方向に向かっているのがマクロの動きです。ブログやTwitterなどテキスト中心だった世界から、インスタやYouTubeなどビジュアルの世界に移行してきています。また、企業の動きとしても、SNSが注目された当初はオーガニック運用が一般的でしたが、そのうちSNSプラットフォーム内の有料広告にお金が流れました。そして、有料広告が値上がりし始めたことにより、インフルエンサーへの注目度が高まっていったのです。2016年には、インスタのみでインフルエンサーマーケティング市場の市場規模が1兆円に到達したとのニュースもありました。市場規模は今後も伸び続けると思います。
このようにビジネスの観点で高い注目を集めているのはもちろんですが、一般の方からも注目が高まっています。1つ象徴的な事例があるのでご紹介します。2017年の2月にMBAの社会人学生を対象に特別講義を行いました。2016年までは、講義の後の質問はソーシャルメディアのROI(投資対効果)や戦略作成に関するものが多かったのに、昨年は「どうやったら自分がインフルエンサーになれるのか」という質問が多く上がったのです。インフルエンサーになるという選択肢が、MBA学生の新しい活躍方法の1つとして捉えられてきているということに、時代の大きな変化を感じました。
コンテンツ制作などインフルエンサーの活躍の場は広がっている
日比:インフルエンサーの活用方法について、日本ではまだ見られない事例はありますか?
シェーファー:細かくはたくさんあると思いますが、大きなものを2つ紹介します。
一つは、アメリカでは古くから定着している「ブロガーアウトリーチ」です。これは、B2B企業が活用することが多いですね。例えば、昨年Adobe Summitにご招待いただいたのですが、これは私がソーシャルメディア業界で大きな影響を持つブロガーだったからです。そのため、フライトや宿泊費用をカバーする代わりに、SNSでの発信やブログ記事の執筆を依頼される。また、メディアが活用する事例ですと、2018年のトレンド予測のコメントを著名なインフルエンサーから集めて記事にするといった事例もあります。これは、日本でももっと事例が出てきていいと思っている活用方法です。
もう一つは、インフルエンサーによるコンテンツ制作です。これは面白い背景があります。多くの企業では企業のSNSアカウントで活用する写真や動画などのクリエイティブを、広告チームが作成していました。しかし、SNS上では広告っぽいビジュアルは人気が出ない。ここに企業が作るものと、消費者が求めるものと大きなギャップがあるのです。SNS独特のクリエイティブを私は「ビジュアルボイス」と呼んでおり、これを作るのにはどの企業も苦しんでいました。そこで、そのビジュアルボイスを作るのに長けているインフルエンサーにコンテンツ作りを依頼する流れが生まれているのです。
例えば、ラスベガスのホテルでは、10万フォロワーのインフルエンサーに無料で宿泊してもらう代わりに、写真100枚・動画20個を撮ってもらう。それらのコンテンツを、著作権ごと買い取るというスタイルです。この場合、ROIはコンテンツ制作代として計測します。この流れの延長線上には、インスタやSnapchatのインフルエンサーによるアカウントテイクオーバーもあります。SNSを日常的に活用するインフルエンサーにブランドアカウントにログインしてもらって1日運用してもらうというスタイルですね。
日比:ブランド認知の向上や、情報の拡散といった形だけではない、多様な活躍の場が広がっているのは、企業にとってもインフルエンサーにとっても良いですね。
インフルエンサーの本当の影響力が計測可能になっていく
日比:今後の、米国でのインフルエンサーマーケティングはどのようなトレンドがあるとお考えですか?
シェーファー:すでに動き始めているトレンドはいろいろありますが、例えば
・評価指標の変化
・ナノインフルエンサーへの広がり
・インフルエンサーによるプライベートブランドの立ち上げ
の3つが、その中でも面白いトレンドではと考えています。
一つ目の評価指標の変化というのは、分かりやすい指標であるフォロワー数から徐々にエンゲージメント率やフォロワー分析に視点が移ってきているということです。企業としては、より正確に施策の効果を測るために、これまで多様な努力を行ってきました。画像解析や機械学習などの技術的な発展も後押しし、本当の意味でのインフルエンサーの影響力が計測可能になってきています。
特に、フォロワー分析は、フォロワーの居住地や年齢・性別などをみた上で、企業が目的に合わせてインフルエンサーを選ぶ流れを促進するものだと思います。現在は、代理店がこれまでのキャンペーンで積み上げてきたデータを活用し、内部ツールを構築している場合が多いです。これが外部ツールとして使えるようになると大きなインパクトがありますよね。最終的には、インフルエンサーが各SNSアカウントからログインし、複数のSNSを横断した情報を取得してインフルエンサーの本当の影響力を計測するタイミングはくると思います。
日比:二つ目のナノインフルエンサーへの広がりはどのようなトレンドでしょうか。
シェーファー氏:昨年は、5~100万人フォロワーを持つマイクロインフルエンサーが注目を集めました。代理店によっては、1万人フォロワー以上いないと200いいね以上到達せず成果が見えにくいので活用しないとしており、1万人フォロワーが下限といった見方でした。しかし、私はさらに500~1万人のフォロワーを持つ「ナノインフルエンサーの活用」が今後は増えてくるのではと考えています。フォロワー数が少ないほど近い距離感をフォロワーと保っており、場合によっては成果が出やすい可能性もあると思います。
しかし、担当者の仕事は、依頼するインフルエンサーの数と比例して増えます。そこは、経済合理性が保たれる分岐点を見極める必要があるでしょうね。ただ、企業によっては、インフルエンサー・リレーションズという役職を置き、インフルエンサーとの関係性を構築するところも出てきているほど、企業にとって欠かせない存在になってきているのは確かです。
日比:最後の「プライベートブランド」のトレンドが非常に気になっています。
シェーファー:今や、Shopify(ネットショップを開設するサービス)でサイトを作って、インスタで拡散するという流れで、個人でも気軽にブランドを構築できる時代がきています。例えば、私にも企業から提案がきていましたが、個人ブランドのTシャツを作成するなんてあっという間にできます。そして、500円で作って2000円で売るということが、強いファンのコミュニティを持っているインフルエンサーにとっては難しくないのです。
日比:インフルエンサーにとっては、自社ブランドをつくるのがゴールになっていくのでしょうか?
シェーファー:インフルエンサー自身がゴールだと意識していなくても、逆にTシャツメーカーさんなどからアプローチがくることもありますね。インフルエンサーはすでにSNS上の活躍のマネタイズ(有料化)を考えているので、自然な流れだと思います。
このトレンドは、日本人インフルエンサーがもっとやるべきだと思います。日本人は、身につけるモノにこだわりを持つ方が多いです。そのため、マス向けでない、個人にカスタマイズされた商品で、自分の好きなインフルエンサーが作った商品というのは、日本で特に受け入れられやすいと思います。
企業もSNS上でインフルエンス力を高めることを目指すべき
日比:こういったトレンドは世界のどこをウォッチしていればいいのでしょうか。
シェーファー:ソーシャルメディアの活用方法で考えると、やはり活用時間・活用人口ともに大きい東南アジアではないでしょうか。一方で、インフルエンサーを活用したビジネスという意味では、アメリカがトレンドを生み出すことが多いです。ヨーロッパのキャッチアップスピードも速いですが。
日比:最後に、日本のインフルエンサー市場に向けたメッセージをお願いします。
シェーファー:今後は、社員もインフルエンサーとなり、企業アカウントもSNS上でのインフルエンス力を持つべき時代になっていくと思います。2000年代はウェブサイトの設置に関して投資対効果の計測が叫ばれていましたが、今やウェブサイトはインフラに近い。この流れが企業のSNSにもきています。もはや、SNS上でプレゼンスがない企業は、ネット上の自社へのイメージを変えることができません。
インフルエンス力を持っている企業は、インフルエンサーが気軽に案件を受けてくれる可能性が高まります。自分の好きな企業から仕事がきたらインフルエンサーといっても嬉しいですからね。インフルエンサー・リレーションズのような担当をおくほどではないにしろ、インフルエンサーとの良い関係を築くことへの意識は必要だと思います。
また、せっかく企業がSNSに投資していても、最近のフェースブックのアルゴリズムの変更により、今後は企業アカウントのオーガニックリーチがゼロに近づいていきます。どのSNSでも、企業アカウントより個人アカウントのほうがニューズフィードのアルゴリズムでは優先されるので、今後SNSで成功するためには、「人」のアカウントを活用していかないと本当に「Pay to Play (課金制)」、いわば100%有料化していってしまうでしょう。ですので、インフルエンサー活用はさらに重要度を増すと考えられます。
このように、今後も注目度が高まるであろうインフルエンサーマーケティングについて、今年出版予定の著書には、日本企業も含めた多くのケーススタディを掲載しようとしています。ぜひ、手に取ってみてください。
インフルエンサーラボ副編集長 兼 コミュニティマネージャー / 個人が自分の強みを発揮して、輝ける社会にする!もっと個性豊かな人たちが発信力を持つことで、社会は面白くなると思う。インフルエンサーラボでは、インタビューを通して、インフルエンサーの魅力を伝えていきます。
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