
動画コンテンツ市場が加熱するなか、2018年には313億、2022年には579億円まで拡大するといわれている、国内YouTuber市場。日々新しいコンテンツが生み出されていくYouTuber市場のなかで、架空のキャラクターを使用して配信活動を行っている、「VTuber」と呼ばれる存在が注目を集めています。
2018年4月には株式会社グリーもVTuber分野に100億円規模の事業投資を行うことを決定するほど、競争が激化していくことが予想される市場のなかで話題になっているサービスが、いちからか株式会社 が運営するバーチャルライバーグループ『にじさんじ』です。現在まで、33名のバーチャルライバーをプロデュースしています。6月3日は、にじさんじSEEDsとして新しく13名のバーチャルライバーが始動したばかり。今回は同社COOの岩永太貴氏に、にじさんじ立ち上げの背景や今後の展開についてお伺いしました。
プロフィール
岩永 太貴氏(いわなが たいき) いちから株式会社 COO
バズワードの組み合わせが鍵だった
日比:にじさんじがはじまったきっかけを教えてください。
岩永氏(以下、敬称略):流行のキーワードを組み合わせてビジネスモデルを作る中で、CEOの田角が初めに考えた案が「にじさんじ」が始まったきっかけです。あるYouTuberの動画でバズったことで、当時iPhone Xで導入されたアニ文字が当時一般人レベルまで浸透していました。2017年後半や2018年前半は、「17LIVE」や「SHOWROOM」のライブ配信サービスが成功していたので、ライブ配信×投げ銭モデルがトレンドになると考えていました。そこでアニ文字とライブ配信でかけ算をしたら価値として成立するのではないかということで、事業としてスタートしました。
日比:にじさんじの配信者は、バーチャルYouTuberのジャンルに入るのでしょうか。
岩永:バーチャルYouTuberが認知されるようになり、そのくくりで紹介してもらうことはありましたが、にじさんじの配信者にはYouTubeで活動していない人もいるので、バーチャルYouTuberと同じだとは思っていません。ライブ配信はプラットフォームによってユーザーが得られる経験が違うので、配信のスタイルや空気感を、ユーザーによって使い分けることができると思っています。そのため、プラットフォームもYouTubeにこだわってはいないので、公式には「バーチャルライバー」と言っています。
所属するバーチャルライバーの一部
https://www.ichikara.co.jp/official
大切なのは「認知」ではなく「人気」
日比:にじさんじの配信者は、どのように選ばれるのでしょうか。
岩永:配信者は基本的にオーディションで募集しており、オーディションには大きく分けて2つのパターンがあります。1つ目は、最初にキャラクターを運営側が作成し、「このキャラクターをやりたい人は応募をしてください」というパターン。もう一つは、「キャラ企画を持ち込んでもらい、一緒にキャラクターを作る」というパターン。どちらが良いかはまだはっきりしていませんが、基本的にはオーディションベースで配信者を決定しています。
日比:バーチャルライバーの配信者に向いているのはどのような人なのでしょうか。
岩永:いまはオーディションの基準を変え、試行錯誤している途中です。配信者を選ぶ際に重要なポイントは、今後人気が高くなるかどうかですが、社内では人気の定義を「人気」と「認知」に分けています。例えば、YouTuberのなかにチャンネル登録者数何百万人という方がいますが、彼らは「人気」があるのではなく、「認知」があると考えています。
一方、にじさんじは生放送が主体なので、「認知」ではなく、「人気」が大事です。この定義での人気の指標は、YouTubeでグッドボタンを押す、ツイートをリツイートしてくれるなど、どれだけユーザーがアクションに移してくれるかで測っています。コミュニティー内の人気の密度次第では、100万人のチャンネル登録者数と100人の生放送視聴者、どちらの価値が高いかは安易に断言できません。100人が長期間継続して応援し続けてくれるのであれば、100万人のチャンネル登録者数よりも価値があるかもしれません。
日比:どのような方が応募してくるのでしょうか。
岩永: YouTubeをステップにしたいという、声優の卵のような方が最初は応募してくると思っていました。しかし今は、You Tuberになることがゴールという方も増えてきており、YouTuberやネットのインフルエンサーになりたいという方の応募が9割近くを占めています。また、応募する方の年齢は、年齢制限を設けていないこともあり、小学生から50代までと幅広くなっています。
日比:配信者さんのキャラクターに応じて、ライブ配信のプラットフォームは変えているのでしょうか。
岩永:配信者のキャラクターによって変えるパターンもあれば、既にプラットフォームに滞留しているユーザーに合わせにいくパターンもあります。例えば「SHOWROOM」であればアイドル好きが多く、「OPENREC」であればゲーム好きが多いなど、プラットフォームによってユーザーにも特色があります。また「Mirrativ」のようにスマホの画面を映し出したらそのまま配信できるといった、手軽さを基準にプラットフォームを選ぶこともあります。
参考:ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」が創る、努力が報われる世界とは
「配信で食べていく」を支える。ゲーム動画配信プラットフォームOPENRECが目指す場所とは
キャラが可愛いだけでは楽しめない生放送
日比:どのような人がにじさんじのファンになってくれるのでしょうか。
岩永:現時点では、もともとバーチャルYouTuberのファンだった方、またはニコニコ動画でライブ配信カルチャーが好きだった方が多いです。動画は短時間に内容が詰まっているので受け身視聴に適していますが、にじさんじはライブ配信とグループ活動が中心なので、動画投稿をメインにしているバーチャルYouTuberとは基本的にユーザー層が違います。YouTube が動画と生放送のどちらも扱っているので一緒にされがちですが、同じ映像コンテンツでも生放送と動画配信では全然ユーザー体系が違います。
日比:にじさんじのファンはどのように増えているのでしょうか。
岩永:新しいバーチャルYouTuberが出てきたら必ずを見るという人が一定数いたので、最初はその方々がファンになってくださり、その後はクチコミ中心で広がっていきました。にじさんじはメインの活動がTwitterなので、リツイートで流れてくることや公式の配信者のツイートも大事になります。また影響力のあるイラストレーターさんが好きなキャラクターの絵をファンアートとして書いてくれることで、これが何千リツイートにもなり、「何のキャラクターだ?」とみんなが見にくるというパターンも多々あります。
日比:キャラクターの見た目の可愛いさから、ファンになるというケースはないのでしょうか。
岩永:キャラクターの見た目からファンになることは、意外と少ないと思います。最初のスタートダッシュは、キャラが可愛い、個性的でインパクトがあるという理由で、ファンの数も変わるかもしれません。ただ、生配信は毎日配信したり、多い人だと1日に何時間も配信したりしているので、キャラきっかけで継続して楽しめるコンテンツの部類ではありません。そのため、見た目だけでは継続してコンテンツを見ようと思わなくなってしまいます。
二次創作自由にすることで好循環が生まれている
日比:にじさんじの活動で、なにか工夫されていることはありますか。
岩永:にじさんじでは、コラボ企画も全て、配信者同士で行なってもらうようにしています。運営が企画を行うと、配信のカラーが固まってしまう可能性があるので、偏ったセグメントの切り口になってしまい、面白さがなくなってしまいます。そのため、YouTubeのガイドラインに違反しない範囲で、配信者の趣味、やりたいことをベースに全部配信者主導でやってもらっています。
日比:にじさんじの公式ライバー20人を、どのようにグループ分けしているのでしょうか。
岩永:1期生、2期生、ゲーマーズというゲーム実況中心のグループの3つに分けています。2期生だけのコラボもあれば、1期生と2期生のコラボもあります。
日比:にじさんじに所属しているライバーのTwitterは、どのような人がフォローされているのでしょうか。
岩永:他のバーチャルYouTuberと比べ、クリエイターが非常に多い印象があります。理由としては、僕たちはキャラクターの二次創作の作成に対してウェルカムなので、クリエイターが曲やゲームを作ってくれるからだと思います。所属しているバーチャルライバーもその状態を喜んでいて、ライブ配信の中でクリエイターが描いたイラストを紹介したりサムネイルで活用したりしています。そのことが、クリエイターのモチベーション向上にもつながり、お互いに好循環な関係になっています。
誰もが自分のアバターを配信できる世界へ
日比:会社として今後挑戦していきたいことを教えてください。
岩永:にじさんじはiPhone Xを使ったライブ配信が中心なので、時間や場所の制約はあまりありません。しかしコンテンツをしっかりと作り込む場合、下手をすると全身スーツのようなVRを使用しなければいけないので手軽に始めることはできません。そのため、「バーチャルYouTuberを始めるきっかけづくり」を会社として一貫してやっていきたいと思っています。
日比:それを達成するために、バーチャルYouTuber業界としての課題はなんですか?
岩永:良くも悪くもバーチャルYouTuberの文化が定まっていないことです。既存のバーチャルYouTuber好きだけでなく、一般の方も自分の2D、3Dのアバターを配信したり、自分のキャラクターをVRで作って遊んだりすることができるようにしたいと思っています。そのためにも、バーチャルYouTuberにおいて特に影響力の大きい企業が、「バーチャルYouTuberとは?」と変に定義せず、業界規模全体を盛り上げていき、バーチャルYouTuberを閉じないコンテンツにしていくことが重要だと思っています。

インフルエンサーラボ副編集長 兼 コミュニティマネージャー / 個人が自分の強みを発揮して、輝ける社会にする!もっと個性豊かな人たちが発信力を持つことで、社会は面白くなると思う。インフルエンサーラボでは、インタビューを通して、インフルエンサーの魅力を伝えていきます。
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