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インフルエンサーは「信頼フィルター」の役割を担う ー 『キーパーソン・マーケティング』著者に聞く、インフルエンサーマーケティングのあるべき姿
インタビュー

インフルエンサーは「信頼フィルター」の役割を担う ー 『キーパーソン・マーケティング』著者に聞く、インフルエンサーマーケティングのあるべき姿

2014年に発売された『キーパーソン・マーケティング―なぜ、あの人のクチコミは影響力があるのか』の著者であり、慶應義塾大学ビジネススクール准教授の山本晶先生。出版されたのは3年前であるにもかかわらず、山本先生は不思議なことに、現在のインフルエンサー業界を的確に解説していました。今回、山本先生の予言通りに「インフルエンサー」が注目を浴び、新たな広告塔として活躍をはじめた今を、どのように捉えているのか、山本先生ご本人に直接尋ねてきました。

プロフィール

山本 晶(やまもと ひかる)氏:慶應義塾大学大学院経営管理研究科 准教授

ソーシャルメディアの発展に伴い、消費者が自らの消費経験を手軽に発信できる時代。インターネット上で「他者に影響を与える」消費者のキーパーソンの存在が注目を集めています。山本先生は、こうしたキーパーソンに焦点を当て、企業がどのように彼らを発見し活用できるかという問いを探求してきた、研究者です。

山本先生(以下、敬称略):『キーパーソン・マーケティング: なぜ、あの人のクチコミは影響力があるのか』を出版したのは3年前の2014年4月でしたが、執筆は2012年で、研究活動は2000年代後半にしていましたので、かなり昔のことのように感じられます。

インフルエンサーラボ副編集長 日比:先生が本に書かれた内容が、今まさに現実になりつつありますね。

山本:そうですね、だから長い時間のギャップを感じますね。インフルエンサーなんて、当時は理論上の概念にすぎなかったんですよ。今では考えられないことですが。「これからありえるのかもしれなけど、実務ではまだないよね」というのが研究者の共通認識でした。

10年前の構想だった「インフルエンサー」が、いま現実に

山本:そんな中で、吉本興業さんも今年2月に、インフルエンサーマーケティング事業をはじめられましたよね。よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属する約6000人の芸人さんが、企業の商品やサービスを、芸人が自身のソーシャルメディア上で広告として紹介していくとのリリースが出ました。研究していたものとしては、ようやく今なのかという喜びに近い驚きがあります。

参考記事:https://www.advertimes.com/20170228/article245034/

私自身はというと、一貫して「インターネット上の消費者同士のインタラクション」を対象に研究を続けてきたんです。修士課程でも、博士課程でも、一貫して興味関心を抱いていました。そのなかで、ちょうど2000年代に「ネット上の、言葉のインタラクション」を研究していたという経緯があります。最近は、研究テーマが移り、消費者同士で部屋や運転技術などの余剰資源とお金を交換する「経済的なインタラクション」を研究しています。

日比:インタラクションの手段は、テキストから動画まで、かなり選択肢が増えてきましたよね。

山本:そうですね、どんどんコンテンツリッチになっていると思います。2005-6年に研究をしていた当時でてきていたのが「テキストを中心としたインタラクション」であるブログでした。でも、ブログって長文のレポートを作成するのと同じじゃないですか。構成立てて文章をスラスラ書ける人ってそんなにいないし。更新をするのに結構な時間を割かないといけないので、ブログを使ってインフルエンサーになるのは、かなりハードルが高かったのだと思います。

それからTwitterが出現しました。つぶやくのに必要なのは、最大でも140字だから、だいぶ投稿が楽になりましたよね。そしていまではインスタグラム。写真を撮るだけなので、インフルエンサーになりたいと思っている、エンドユーザーのハードルは下がってきている印象がありますね。もしもブログだけしか生まれなかったら、今、こんなにインフルエンサーマーケティングは流行っていない可能性がありますよね。

日比:簡単に使えるプラットフォームが増えてきたからこそ、インフルエンサーと呼ばれる人が増えてきたということですね。

そもそも、「インフルエンサー」とは?

日比:最近、流行するにつれてインフルエンサーの定義が曖昧になってきている気がします。山本先生は著書のなかで、体系立ててインフルエンサーを定義づけていらっしゃいました。改めてインフルエンサーの定義を解説していただけますか。

山本:以前、定義づけたときは「質的効果:当該製品・サービスに関するカテゴリー知識、関与、経験の総体」「量的効果:フォロワーの数などで測ることができる、一定の人々への影響力を持つこと」の両方をもっている人としていました。この要件は、いまでも同じだと思っています。

日比:「精通」してない人もインフルエンサーと捉えられるようになってきている気もします。

山本:質的効果は精通したエキスパートという意味ではなく、インフルエンスされる側、すなわち情報の受け手よりも送り手の方がカテゴリについて知識や関与が高ければ、マイクロインフルエンサーになり得ると考えています。今年、WOMMAがインフルエンサーのガイドライン(英語)を発表しました。そこで、セレブリティインフルエンサーから、マイクロインフルエンサーまで定義づけをしています。この、マイクロインフルエンサーも企業からアプローチしやすくなっているので、インフルエンサーという言葉が広義になっていっているのだと思います。

日比:本当にインフルエンサーがファンの方に対して「影響力」を持っているかどうか分かりにくくなっている印象があります。その部分はどうお考えでしょうか。

山本:研究当時、インフルエンサーに期待していたのは「この人さえフォローしておけば、デマに左右されない」という安心感をあたえるような存在でした。インターネット上に存在する、無数で玉石混合の情報に対して、「信頼フィルター」をかけてくれる。そんな役割を、本来はインフルエンサーが担えるはずだと考えていました。

例えば3.11の後とかって、放射能の影響で石油の雨が降るとか、謎の噂が流れましたよね。だからこそ、例えば東京大学の専門家やその道の研究者の発信が、社会的にも意味をもっていました。消費者が、企業が発信するものやネット上の情報に疑問を抱いたときに、情報の確度をあげるための確認材料にするのが、インフルエンサーが発信している情報であって欲しいなと。ただ、いまのインフルエンサーマーケティングをみていると、(隠れた宣伝行為である)ステマが横行していて、インフルエンサーが信頼フィルターの機能を果たせていない。非常に残念です。

中立的な第三者だから、インフルエンサーは消費者に信用されるのに。ステマなどの形で、特定の企業にお金をもらってしまったら、いいことしか言わない企業サイトとあまり変わらなくなってしまう。そうすると、消費者は広告的な匂いを1km先からもかぎ分けるので、インフルエンサーマーケティングの仕組みが死んでしまうような気もします。ただ、もしインフルエンサーに対して、お金ではないインセンティブ設計ができたら、この状況は変えられると思います。

インフルエンサーを多角的に理解する

日比:もともとインフルエンサーってお金がほしくてYouTubeとかTwitter、インスタグラムをしているわけではないんですよね。根本的には、お金以外のものを求めていたかもしれない。

山本:おっしゃる通りだと思います。クリエイティビティの発揮だとか、承認欲求だとか。本来は金銭的なものの他に欲求の根源が存在していると思います。わかりやすい例だと、女の子が「かわいい」と言われたくて、インスタに写真をアップする、というような。だからお金以外の欲求を、インセンティブにできれば、信頼フィルターであることとの両立もできる可能性がありますよね。

全て、民主化の方向性へ向かう

日比:LIVERの方が、継続的にLIVE配信を行うことでファンを獲得し、そこに企業からのスポンサーがつくような動きもあります。この、LIVE配信を通じて発信することで影響力を持つ例は、これまでお話しして来たインフルエンサーと少し異なる動きのような気がします。

山本:面白い動きですね。何らかの知識が少し上、というよりは「手が届きそうなアイドル」の新しい形のような印象です。インフルエンサーマーケティングの仕組みが、夢を叶えたい人のいいツールになっているということですね。それは今までのように、芸能事務所に入らなくても、「スターになるための道」が、「民主化」されたということだと思います。

インターネットの一連の流れは、「民主化」なんです。インターネットやソーシャルメディアは、フェイクニュースや騙される消費者のように、その普及がもたらす弊害も多くあります。でもその一方で、本来的には、いままで何も持っていなかった人が、発信する力を手にいれる仕組みでもある。これは、いいことだと思います。

日比:その他に、インフルエンサーマーケティングについて感じている課題はありますか?

山本:食べ物にも、人工的なものとオーガニックなものがあるように、クチコミにも二つあります。今は、人工的なものの方に、お金も人も集まってしまっていて、オーガニック食品の危機のようなものを感じています。中立的な第三者の意見というオーガニックなクチコミが、本来の良さだったのに薄れてきてしまっている。

日比:そうですね。そう考えると、結局いい商品じゃないと、いいクチコミが生まれないというところに戻ってきますね。

山本:まさにそうですね。最初から、商品に尖った特徴があるのが重要。そういう特徴がないのに、単に企業側がマス広告の予算がないからとか、流行しているからとかいう理由で、新しくて安い宣伝手段としてインフルエンサーが使われるのは間違っていますね。

そもそも、ユーザーに求められていない商品をPRすると、インフルエンサーの信頼度の低下にもつながります。そういう、ユーザーの信頼を裏切るような行為をした人や企業は、市場から退出するような「自浄作用」があるとよいですね。インターネットのいいところは、間違った理由で君臨し続けることができず、みんなの意見で市場から退出させることができることだと思います。

「ホワイトリスト」で、賢い情報の受け手に

日比: 今後のインフルエンサーマーケティングがどのように変化していくかについて伺わせてください。

山本各企業が、インフルエンサーの「ホワイトリスト」を作っていくことが必要だと思います。自分のブランドに対して好意的な評価をしていて、知識を持っていたりする人たちのリストを持っておいて、その人たちをインフルエンサーと扱う。必要になってくるのは、企業単位やブランド単位のインフルエンサーであって、そんなインフルエンサーを活用することが消費者の態度変容や行動変容につながると思います。マスメディア的にインフルエンサーを活用したい時もあると思いますので、その時は純粋にフォロワー数で選ぶ。この使い分けが明確になるのではないでしょうか。

日比:情報の受け手側がどう変化していくのかについてはどのようにお考えでしょうか?

山本: 私自身も、信頼できる人のリスト「ホワイトリスト」はつくっています。この人だったら信頼できるっていう情報を自分で整理しています。あとは、公の情報に立ち返る。総務省とか経産省とか、公的な機関が出している情報を吸収、参照したりします。一方で、怪しげなネット記事は話半分に受け取る、とか。

こういった「ホワイトリスト」を個人それぞれが作ることが重要だと思います。今朝も、LINEを使って裸の自撮り画像を送らせる行為に対する、新たな規制についてニュースで議論されていましたが、こういった事例において餌食になってしまうのは情報リテラシーの低い人たち。

だから、情報の受け手のリテラシーを高めるための教育の重要性が、ますます高まりつつあるのだなと感じます。情報を発信するときのルールをどのように決めるか?情報受信の正しいあり方とは?情報の受発信によって、人を傷つけないためにはどうすればいいのか?こういったテーマについて、個人や企業レベルではなく、国レベルで向き合って考える時が来ているのだと思います。

日比朝子
ライター
日比朝子

インフルエンサーラボ副編集長 兼 コミュニティマネージャー / 個人が自分の強みを発揮して、輝ける社会にする!もっと個性豊かな人たちが発信力を持つことで、社会は面白くなると思う。インフルエンサーラボでは、インタビューを通して、インフルエンサーの魅力を伝えていきます。

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